【連載】企業を歩き人と会う ~A社長がのぼる桜坂~

 「桜坂」と呼ばれる急坂をのぼった左手にその会社はあった。今でこそ上場したそのベンチャー企業のオフィスは、当時は薄暗くカビ臭いビルの一室にあった。見るからにインテリでIQが高そうなA社長は、腰が低く、丁寧で、徳を感じる人。壮大な夢を語るその目に吸い込まれるような感覚があった。

 あれから10数年、その夢は完全には叶えられていない。決算を見ると、投資がかさみ、収益的に厳しい状況にさえある。しかし、夢を諦めてもいない。実現に一歩一歩近づいている。

 今年、A社長と面会する機会があった。ちゃんとお話しするのは「桜坂」のオフィス以来だろうか。厳しい状況は決算発表会で聞いている。だからこそたわいもない話しかしなかった。でも、夢を語るA社長の目は、少年のように輝いていた。周りでは好き勝手言う人がいる。月並みではあるが「夢を語らなくなったら終わり」そう教えられた気がする。

 息子の塾のお迎えで「桜坂」をのぼっていた。あの薄暗いオフィスはなくなり、新しいビルが建つという。春になればこの坂は桜色に染まる。散っても何度でも花は咲く。そこに、生きてる芽(目)があれば。

 

 

 

詳しくは健康産業新聞第1691号(2020.5.6)で
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