特集【殺菌乳酸菌】 免疫、メンタル、オーラル、運動機能など用途拡大

 殺菌乳酸菌はその名の通り、培養した乳酸菌やビフィズス菌などの有用菌を加熱殺菌処理によって加工した死菌体。殺菌によるメリットは、乳酸菌の品質を一定にすることで原料の安定化が図れるほか、菌を高密度化させることで少量の摂取で多くの菌数を摂取できる点。さらに、生菌と異なり胃酸の影響を受けにくい点も利点。製造における制約もほとんどなく、焼き物など熱を加える工程にも強い。また、製造現場においてもコンタミリスクを減らすこともでき、その取り回しの良さから健康食品や加工食品をはじめ、中食、外食産業でも広く使われるようになった。

 

 機能面では、培養時に菌体活性が最も活発になるタイミングで、殺菌処理を行うことで、その菌株が持つ機能性を余すことなく発揮させることができるのも殺菌原料ならでは。殺菌体の歴史は古く、乳酸菌研究の祖とされるロシアの微生物学者メチニコフの時代から、殺菌体を用いた研究は行われていたという。殺菌体の作用メカニズムについては、腸内細菌叢研究の権威、故光岡知足氏が明らかにしており、「腸管を入った乳酸菌は小腸のパイエル板を通過して体内に引き込まれまれ、マクロファージによる貪食が起こり、IL-12やインターフェロン-αなどのサイトカインを分泌する」としている。こうしたことから、特に免疫領域への作用を持つ菌株が多い。

 

 研究では、整腸作用はもちろん、抗肥満作用や肌の保湿作用、口腔環境の改善、タンパク質吸収促進など、幅広い成果が確認されている。光岡氏は腸管を介し健康に寄与する成分を「バイオジェニックス」と定義し、利用促進を推奨したが、言葉の定着には至らなかった。しかしその一方で、殺菌体市場は関連企業の努力もあり、年々拡大を続け、現在では一大市場を築くまでに。そして現在、海外では、probiotics(プロバイオティクス)、prebiotics(プレバイオティクス)と並び、殺菌菌体や代謝物を指すpostbiotics(ポストバイオティクス)として定義されるようになり、多くの関心が寄せられるようになった。世界的な健康意識の高まりを背景に、日本が独自に形成した殺菌体文化が全世界へ発信されている。つづく

 

 

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