特集【NMN】 臨床レベルの研究報告 相次ぐ

 2020年3月の食薬区分改正にて、NMNとその前駆体であるNRが非医薬品リストに追加された。これを受けて、本格的にNMN市場に参入するサプリメントメーカーが急増。帝人グループの『NADaltus』をはじめ『パワーサプライNMN』(日清ファルマ)、『フラコラ NMN+サイタイ』(協和)など大手企業による商品の上市が進み、従来の美容クリニック、会員制サロン、MLMなど一部の限られた販売ルートから、フィットネスクラブ、百貨店などオープンマーケットまで販路が広がった。一方、主要な販売メーカーへの聞き取りでは、昨年度のNMNサプリの売上は、「横ばい」「どちらともいえない」との回答が多く、2ケタ伸長は一部のネットワーク系企業を除いて見られなかった。

 

 これまで、売上好調だった中国での法改正の影響もあり、越境EC関連の売上にはやや陰りも。加えて、コロナによる都市部のロックダウン、物流コストの高騰などもマイナスに働き、前年比2ケタ減まで売上が落ち込むメーカーも見られた。ただ、今年の業績は上向くとの回答もあり、コロナの収束に伴うインバウンド回復に期待する声も少なくない。NMNサプリのOEM案件も依然として活発だ。本紙が今年5~6月にかけて健康食品の受託製造企業を対象に実施したアンケート調査(有効回答132社)では、今年上期の人気受注素材として、NMNが31票を獲得して1位に。昨年12月の調査以来、トップを維持している。この結果は、単純な受注依頼数をベースとしたもので、実際の取引額や出荷数と必ずしもリンクするものではないが、非医薬品リストへの追加以降、NMNの需要が高まっていることがうかがえる。

 

 NMNの価格相場は、大幅に下がっている。一昨年までは、「キロ当たり150万円」という原料も見られたが、原料メーカーによる生産コストの削減、新規参入企業の増加に伴う価格競争などが要因となり、現在はキロ当たり10~15万円で安定している。末端商品を見ても“ 1ヵ月分30万円”のような高額製品はほとんど見られなくなり、1ヵ月当たり3~4万円がNMNサプリの相場となっている。「誰でも簡単に手に入る」とまではいかないが、一般層でも手が届く価格帯になったことで、市場の裾野は広がっている。店舗バイヤーからは、「主な購入者は30~40代の女性だが、最近では男性の購入者も多い」「会社経営者や若手のビジネスパーソンが、自分への先行投資として購入されるケースも多い」などの声も。また、全国でチェーン展開するドラッグストアでも試験的にNMNサプリの導入を検討する動きもあり、市場のさらなる拡大が期待されている。

 

 NMNやNAD+に関する研究は、米国学会を中心に進められてきた。これまでに、皮膚や骨格筋、血中などのNAD+は、加齢と共に減少すること解明されており、NMNを補給することで生体組織の機能性不全を改善することが示唆されていた。また、マウス試験では、代謝促進、エネルギー産生、網膜炎症の改善、骨密度の増加などの有用性が確認されていた。一方で、臨床レベルの研究論文は少なく、人が摂取した際に期待できる効果、安全性、摂取目安量等については不明確な部分が多かったこともあり、一部では「“若返り”という言葉だけが独り歩きしており、エビデンスに乏しい」「安全性に疑問が残る」という声も聞かれていた。

 

 市場形成が進む中、臨床レベルのNMN研究に取り組む研究機関や企業も増えており、東京大、慶応義塾大、静岡大など国内の有名大学による研究も活発化している。昨年は、高齢者や糖尿病患者を対象とした試験で歩行能力、握力、聴力スコア、持久力の向上、血糖値、インスリン値などの改善が確認され、英国科学誌『NPJAging』や米科学誌『Science』などに論文発表された。各研究データでは、1日当たりの摂取量は150~300mgと論文毎に差が見られるものの、60日前後の継続摂取でも人体への悪影響は確認されていない。つづく

 

 

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