特集【抗炎症・慢性炎症対策】 慢性炎症抑制、ロンジェビティ素材開発の新たな軸に

 炎症は本来、感染や外傷から体を守り、傷ついた組織を修復するための生体防御反応である。通常は原因が取り除かれると収束するが、加齢、肥満、ストレス、睡眠不足、運動不足、喫煙、腸内環境の乱れなどが重なると、炎症反応が完全には止まらず、低いレベルでくすぶり続ける。慢性炎症が疾患を引き起こす背景には、免疫細胞から継続的に放出されるIL-6、IL-1β、TNF-αなどの炎症性サイトカインがある。これらが過剰な状態になると、活性酸素の産生が増え、DNAやタンパク質、細胞膜、ミトコンドリアを損傷する。さらに血管内皮機能の低下、インスリン抵抗性、組織の線維化などを介して、動脈硬化や糖尿病、肝疾患などの進行を促す。脳では、持続する炎症シグナルが神経細胞や脳内の免疫を担うミクログリアに影響し、認知機能低下や神経変性に繋がる可能性が指摘されている。炎症性サイトカインは神経伝達物質の働きにも影響するため、疲労感、意欲低下、抑うつなどと関連した研究が推進されている。一方、損傷を受けて分裂を停止した老化細胞は、SASPと呼ばれる炎症性物質群を分泌する。SASPは周囲の正常細胞にも炎症や老化を広げ、さらに免疫機能が低下すると、老化細胞を除去する能力も衰える。細胞損傷が炎症を招き、その炎症が新たな損傷と細胞老化を生む「慢性炎症ループ」が形成される構図となる。現在、この慢性炎症ループが種々の疾患の発症や促進に繋がる重要な要素として認識が広まりつつある。

 

 昨今、老化研究の代表的な枠組みとして広く認知されるようになった「エイジング・ホールマークス」。ゲノム不安定性やテロメア短縮、エピジェネティック変化、ミトコンドリア機能不全、細胞老化など、老化を特徴付ける生物学的変化を体系化したもので、2023年の改訂版では慢性炎症、腸内細菌叢の乱れ、マクロオートファジー機能の低下が加わり、合計12項目へと拡張された。なかでも慢性炎症は、ほかの多くのホールマークと双方向に作用する点で重要性が高いとされており、ミトコンドリアの機能低下や腸管バリアの破綻が炎症を引き起こし、炎症がDNA損傷、細胞老化、幹細胞機能低下をさらに促す。慢性炎症は単なる老化の結果ではなく、老化を前進させる駆動因子の一つと捉えられている。

 

 サプリメント先進国の米国では、抗炎症をテーマにした製品が「ANTI INFLAMMATORY」や「JOINT SUPPORT」として広く流通している。代表素材の一つが、魚油や藻類由来のEPA・DHAなどオメガ3脂肪酸。炎症を促進する脂質メディエーターの産生を調節すると共に、炎症の収束に関わるレゾルビンなどの前駆体になることから、関節、心血管、脳機能領域の対策商品に利用されている。植物素材では、クルクミンが大きな市場を形成している。NF-κBなど炎症関連シグナルへの作用が研究され、CRPやIL-6などの炎症マーカーを評価した臨床試験も蓄積する。吸収性の低さを補うため、微粒子化、リン脂質複合体、ミセル化など、バイオアベイラビリティを高めた素材開発が進んでいる。インド伝統医学アーユルヴェーダで用いられてきたボスウェリアも、炎症に関わる5-リポキシゲナーゼ経路への作用を特徴に、関節やモビリティ領域で採用が広がる。このほか、レスベラトロール、ケルセチン、緑茶カテキン、ショウガ、アスタキサンチンなどのポリフェノール・抗酸化素材も、酸化ストレスと炎症の双方に着目した製品に配合されている。さらに近年は、腸内細菌叢の乱れから慢性炎症にアプローチする製品も増加。プロバイオティクス、プレバイオティクス、ポストバイオティクスを用いて腸管バリアを維持し、細菌由来成分の体内流入を抑えるという考え方だ。腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸やインドール類などの代謝物と、免疫制御との関係にも関心が集まっている。つづく

 

 

詳しくは健康産業新聞1843号(2026.9.2)で
健康産業新聞の定期購読申込はこちら