別冊【エイジングケア】 セノリティクス製品、開発本格化
現在、日本の総人口1億2,380万人に対し、65歳以上の人口は、3,624万人(29.3%)となり、高齢化率は、ほぼ3割となった。高齢化と共に、課題となっている健康寿命は、年々延伸傾向で、健康な高齢者が増えたことを示唆している。スポーツ庁が2024年末に発表した令和5年度の『年齢と体力・運動能力』によると、高齢者(65〜79歳)の体力テストの合計点は、前年よりも向上していた。高齢者の健康バロメーターの1つである「握力」について、2003年の65〜74歳までの握力テストでは、男性37.37kg、女性23.58kgだったのに対し、2023年では、男性38.43kg、女性24.41kgと1kg以上増加。高齢者の体力は年々増加傾向が見られる。
今年6月25〜27日に開催された『Japan Health』(主催:インフォーマ マーケッツ ジャパン)内で実施されたカンファレンス「自由診療が切り拓く日本医療の新市場」では、自由診療の医師や識者が登壇。前内閣官房参与で医学博士の鴨下一郎氏は、「日本人の健康長寿は、世界に例を見ないほど成功を収めている。早くから高齢化社会を迎え、治療・予防共に世界の手本となった。早急に自由診療を推進し、海外に向けて日本の医療を発信していくべき」と話した。また海外では、健康的に長生きして人生を楽しむことを指す「ロンジェビティ」に関する研究が進展しているとも話す。ロンジェビティを健康長寿と捉えると、日本は早い時期から、「ロンジェビティ」に取り組み、成功を収めたとも言える。
エイジングケア医療を行う医師の間では近年、「老化は病気」と捉え、老化を治療するための研究が進んでいる。老化を食い止める成分を指す「老化除去成分=セノリティクス成分」が、健食分野でも研究が活発化しつつある。ファンケルは今年3月、バラ科のキンミズヒキに含まれるアグリモール類が体内の老化細胞を減少させる臨床結果を発表し話題をさらった。「キンミズヒキ由来アグリモール類」を関与成分に、機能性表示食品『ウェルエイジプレミアム』を発売。老化細胞除去のエビデンスが一般紙などで取り上げられたことで、同製品の注文が殺到し現在品切れが続いている。グリコ栄養食品も4月、ネムノキで老化細胞除去剤としての特許を取得。今後ヒト臨床試験を行い、サプリメントなどへの製品化を目指すとしている。
セノリティクスの代表的な成分は、ケルセチンやNMNなど。ケルセチンは、タマネギ外皮に含まれる成分。NMNは、体内でサーチュイン酵素が働くことで老化によって乱れたDNAの修復を行い、様々な作用をもたらすといわれている。今では、製品化、知名度共にエイジングケアの人気サプリメントとなっている。またPQQ、5-ALA、水素なども、体内のミトコンドリア内でATP(エネルギー)を産出する作用を持つ。また、単体での配合に加え、NMNとの相乗効果も期待されている。
エイジングケアの分野の新たな動きでは、エピジェネティクス研究が挙げられる。エピジェネティクスとは、生物学的年齢の変化とも呼ばれ、DNAの塩基配列を変えず、遺伝子の働きを制御する仕組みを研究する学問を言う。暦年齢とは別の考えで、遺伝だけでは決定せず、外部環境により老化速度が変わる。運動や栄養など外部環境が生物学的年齢に影響を与え、見た目の若さ、運動能力など、幾つかのマーカーで若さを測定が可能になっている。エピジェネティクス研究は、医療だけでなく、健康食品の分野でも活用できることから健食メーカーでも研究を始める企業が出てきた。
DSMは3年間に呼ぶ大規模ヒト介入試験により、オメガ3系脂肪酸とビタミンDの組合せを摂取することで、エピジェネティクスに貢献することを発表した。また、大和薬品は、米ぬか由来「バイオブラン」と乳酸菌「米ケフィラン」の継続摂取が、エピジェネティクス改善に繋がるとの研究成果を発表している。エピジェネティクスの研究を推進する学会も設立されており、各学会でもエピジェネティクスに関する研究発表がされている。つづく
〈エイジングケア キーワード解説〉
1. エピジェネティクス……DNA の塩基配列自体は変化しないものの、遺伝子の働きが変化する現象や、その仕組みを研究する学問。ギリシャ語の「epi(上、〜の上に)」と「genetics(遺伝学)」を組み合わせた言葉で、遺伝学を超えたレベルでの遺伝子制御を意味する。
2. セノリティクス……老化細胞を選択的に除去する薬剤や治療法の総称。医療の他、食品分野でも老化細胞除去成分が発見され、利用が始まっている。
3. ロンジェビティ……年齢を重ねるにつれて生じる慢性疾患や障害を防ぎ、健康寿命を延伸す活動。単に寿命を延ばすだけでなく、健康な人生を長く楽しむことを指す言葉として使われる。
詳しくは健康産業新聞1818B号 別冊「エイジングケア」(2025.8.20)で
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